つばの黄色いスニーカー

一度も会ったこともないあの人は、実はとても身近な人かもしれない。自分の足元だけ見て生きている時、わたしもあの人を不幸にしている、犯人かもしれない。

いわきの和菓子屋さん

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少し前の話。


3月11日の興奮が覚めていない翌日のこと。

(3月11日はいわきの仮設住宅での音楽フェス
song of the earthに行きました。)

http://tsubablo.hateblo.jp/entry/2018/03/13/140751



宿泊した宿の近くに和菓子屋さんがあり、
お土産を買うために入ってみた。
上の写真はそこのかりんとう饅頭。


その和菓子屋さんでの出来事。


お店のおばあちゃんと、店員かと思うくらい
商品に詳しい常連のおばちゃん。

私のでっかいバックパックを見て、
一目で遠方から来たと判断したお二人は、
試食とお茶を出して椅子に座らしてくださった。

「この辺は温泉いっぱいあって、さっき朝風呂してこの和菓子屋さんに寄ってきたのよ~」

と、常連の女性。
しかも夜勤明けの温泉とのこと!
それは気持ちいいだろうなあ。。

嬉しそうに色んな話をしてくれて、楽しい時間。



*****



キャッキャ会話してる内に、当たり前のように
なぜここに来たのか尋ねられたので、
仮設住宅のイベントに行ったと答える。
当然のように仮設住宅の話になった。


「そう、そんなイベントがあるのね、わざわざ大阪から・・・ありがとうね~・・・ 」

「仮設はね、今たくさん壊されて、公営住宅に移ってるとこよ~・・・」


二人の表情は少しずつ曇ってゆく。

私は来月も福島に来て、
三春町の桜を見に行くことを伝えた。


「滝桜いくの!そうなの~!きれいだもんね~!」


と、パッと明るくなる空気。

でも、せっかくだからほかにも行きたい、
夜ノ森公園(富岡町という線量が高いところにある)
はどうなんですかね・・・?

そう聞くと、再び空気は一変。


「夜ノ森公園ね、あそこはまだ線量が高いよ、まだ無理じゃないかな・・・富岡町民は5%くらいしか帰ってきてないって言うしね。」

「ここ、いわきにも、たくさん避難してて、それぞれ生活が始まってるからね・・・」


おしゃべりだった二人が、急に無口になり、
常連の女性は「そろそろ帰ろうかな」と
寂しそうな笑顔で席を立つ。



*****



そのとき思った。
「福島の」原発事故は、何度奪ってきたのだろう。

今、目の前にいる二人の温かい時間、
楽しい時間、穏やかな時間を。


ふとした瞬間に、毎日のように、
現実を突きつけられるような。


自然災害だけではない、
間違いなく「人災」であるこの出来事で、
今まで何人、何百人、何万の人たちが
温かい時間、温かい日々を奪われてきたのだろう。


この時、私も、目の前の二人も、
とっても寂しい気持ちになったことは確か。

なぜ、こんな思いをあなたも私も
しなければいけないのか?

なぜ、こんなにもたくさんの人と人が
分断させられなければならないのか?



それから大阪に帰った翌々日、14日。

https://www.asahi.com/sp/articles/ASL3F6GMJL3FPLFA00L.html

この日福井県にある関西電力大飯原発3号機は
再稼働し、日本で稼働している原発
全部で4基になった。

3月下旬以降にも、各地で再稼働の予定があがっている。



東電の原発によって、
まだ住める状況ではないところがあること、
事故の後始末もできないでいる現状も
あまり知られていない上に、
しれっと再稼働する各地の原発


私は、

私たちは、

あの和菓子屋さんのときのような、
寂しい思いをこれからも何度も
しなければならないのか。

きっと、私が嘘をついて

ただの旅行

三春町の桜だけ見る

と言っていたら、
私たちはもっと楽しい時間を過ごせていた。


でも、


なんで嘘をつく必要があるの?


根本にあるのはそこではない。

原発さえなければ。


和菓子屋さんでの二人が思い浮かぶ。
私は悲しくて情けなくて、
申し訳ない気持ちになる。

「福島」の人たちに
背負わされている物がなくなるとき、

「福島の」問題ではなくなり
再び起こされることがないようになり、

二人の温かい時間が取り戻されるとき

「ごめんね、ありがとう!」

と腹の底から言いたい。



ずっと考えながら、
かりんとう饅頭を噛みしめていた。
目の前の風景が、にじんで見えた。